【豊浦町原木シイタケ栽培農家】　城石俊昭さん

　城石さんの原木シイタケの圃場は大河内温泉の近く、豊浦町の風力発電の風車が建つ山の麓にあります。
　デニム地のシャツにジーンズ、デニム地のキャップをかぶり、まるいフレームのメガネをかけた城石さんはシイタケ農家というよりは芸術家のような雰囲気の方です。

　「ここは僕の実家なんやけど、もともと田んぼとか畑しよったけぇ農業は昔から身近やったねぇ。僕自身は東京で就職して、その後５年くらいかけて日本全国を巡って、日本の島はほとんど行ったよ。帰ってきてからは他の仕事もしながら兼業農家でいろいろやってきて、本格的にシイタケ作るようになってからはまだ６年くらいかな。」とご自身のことを語ってくれました。

　そんな城石さんを見て、ふと右手の手首から先がないことに気付きました。
　尋ねてみると、フレームに入れた新聞の切り抜きを取り出してくれました。「これ前に新聞に載った記事やけど、見たらどんなことしてきたかわかるよ。」と言われて見てみると、「１６歳の時に仕事の事故で右手を失った城石さんが、故郷に戻って栗の栽培を始めた」という内容でした。「最初は大変だったけど、母が『野菜づくりなら片手がなくてもできるよ。』って言ってくれたんですよ。」と城石さん。

　片手を失ってからも様々なことを体験されてきたようです。日本全国を巡った後も、自転車で韓国を旅したり、フランスの方を家に居候させたりしながら、滝部や長門に会社を構えて自動車関係のお仕事を２０年ほどされたそうですが、実家に戻って本格的に農業に携わったのが栗の栽培でした。１町ほどの広さで栗を栽培し、直接市場に出荷していましたが、奥様が病気がちになったことをきっかけに、比較的収穫が楽な原木シイタケの栽培に移行していきました。

　ご自宅から少し離れた竹林の中に原木シイタケの圃場があります。斜面になっている竹林の中で、竹を間引いて場所を作り、きれいに原木を並べてあります。「竹林の中だとほどよい木陰になってシイタケの成長にちょうどいいんよ。今は原木が千本くらいやけど、もう少し増やす予定。」と言いながら、入り口にシートをかけて保存している原木も見せてくれました。

　シイタケ栽培は最初にシイタケが生えてくるまでの準備にかなりの時間を要します。
　秋に原木にするクヌギなどの木を切り倒し、根っこの方を少し高くした状態でそのまま春まで置いておきます。その後１mくらいに切ってシイタケの菌を１本につき３０個くらい打ち込んで、更に１年ほど寝かせます。温度や湿度の管理を丁寧におこなってあげることで、次の年の秋にやっとシイタケが生えてくるのです。

　城石さんは栽培を始めてからいろんな品種を試して、今は大型で肉厚の品種を選んで栽培されています。「シイタケは春と秋が旬やけど、春の方が大きいのができるね。ちょうどいい気温になってきたら水を撒いて湿度を上げてやるとだんだん出てくるんよ。なかなか大きくならんときは出てきたシイタケに袋をかけてみて、大きくなるか試したりしよるんよ。自己流やけどね。」と話す城石さん。とっても生き生きとしています。

　平日は社会福祉施設でお仕事をされているので、春と秋の収穫時期は早朝と夕方の２回、懐中電灯を持って宝探しするように収穫するそうです。
　「特に春の時期はすごいよ。シイタケの爆発！って感じでね。次から次へと出てきてどんどん大きくなる。」と言いながら城石さんは上を見上げました。頭上には緑色の竹の葉が広がっていて、木漏れ日が降り注いでいます。

　「僕は日本全国いろんなところに行って、五島列島の綺麗な長い浜とか、出会った人たちの優しさが今も心に残ってる。でもここも自然が最高ですよ。こうやって生き物を育てることには福祉力があると思うんよね。いずれは障害がある人たちを受け入れて、一緒に作業できるようにしたいなぁと思っとるんよ。」と未来の構想を教えてくれました。

　気持ちのいい竹林で育った城石さんの原木シイタケは、菊川町の「小日本ふるさと市」、豊浦町の「宇賀青空市場」、「とんがりぼうし豊浦」などに出荷されています。豊浦町の豊かな自然の味をぜひ確かめてみてください。