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【山口県漁業協同組合 特牛支店】 漁師 野口景太朗さん
滋賀県出身の野口さんは、36歳のときにインターネットで山口県の漁師募集に応募したことがきっかけで、漁師の道を歩み始めました。「下関の海がいいと思って。」という野口さんの言葉に、市民のひとりとして嬉しくなりました。野口さんが利用した新規漁業就業者の支援制度は、希望する漁について学ぶため、2年間地元の漁師さんと一緒に漁に出て研修を受けてから独立するという流れで、独立後にも様々な支援を受けられるものです。
野口さんは主に「ひき縄釣り」という一本釣り漁をしています。重りが等間隔に付いた300mの長さの糸の先端に針を付け、水深70m〜80m程のところで獲物を狙います。冬場には2時間ほど船を走らせて、萩市の見島近くの漁場まで出かけてブリやヒラマサなどを釣ります。ブリの餌にはサンマを丸ごと1匹付けます。これまでに大きいものでは、14kgのブリを釣り上げたこともあるそうです。ヒラマサは、ルアー釣りで20kgから30kgもある大物が釣れることもあるとか。他にも、夏場にはケンサキイカを釣ったり、潜ってアワビやサザエを獲ったりするなど、様々な漁を行なっています。
そんな漁師としての生活には、研修の時にお世話になった先輩漁師さんや、野口さんと同じように新規漁業就業者の支援制度で漁師になった仲間といった存在が不可欠だ、と野口さんは言います。「趣味で釣りをしよったのとは全然違いましたね。先輩と一緒に船に乗って漁に出て、仕掛けやら漁場やら本当に色々教えてもらいましたからね。それぞれの魚に合った締め方や血抜きの仕方もあるし、ケンサキイカは活かして持って帰るのが大事なんですけど、難しいんです。イカを活かす技術とかも教えてもらいました。他にも、箱詰めのやり方とか漁で必要なことは全部教えてもらいました。」
野口さんは現在、自分の名前の「景」を入れた「景漁丸」という船に乗り、ひとりで漁に出ています。「ひとりでのお仕事は寂しくないですか?」と聞くと「船では無線で、よく漁師仲間と連絡取りますからね。今釣れてるところを教えてもらうとか、情報共有してます。自分だけ釣れてない時は、いろいろ考えますけど、いつも同じようにいかないからこそ、工夫のしがいもあるし。釣れてる場所でも、仕掛けなんかは人それぞれの工夫ですからね。」と話してくれました。
特牛地区では、新しく漁師になろうとやってきた人たちに対し、先輩漁師さんが自らの経験で得た知識や技術を惜しみなく伝えてくれるそうです。新しく漁師を目指す人たちには、様々な支援制度だけではなく、そんな先輩方の思いやりも特牛地区の魅力のひとつになっているように感じます。先輩漁師さんから得たものだけではなく、野口さんは、天気や漁場の位置、釣果などのデータを手帳に書いて、次の漁に生かしています。
先輩漁師さんや漁師仲間の話をすると、より明るい表情になる野口さんは、仕事の喜びも教えてくれました。「大きい魚が釣れたら嬉しいし、自分が獲ってきたものがいくらで買ってもらえるかっていう楽しみもありますね。自分で釣ってきたものを食べたら、生活費も抑えられるし。時化で漁に出られない時も、仕掛けを直したりいろいろやることはあるし、頑張った分だけ収入につながるんで、そこが漁師の仕事のいいところですかね。」
もちろん体力的にはキツイこともあり、自然が相手で危険なこともあるので、十分注意しながら仕事をしている、と語った野口さんには、同世代の人たちに知って欲しいことがあるそうです。「たぶん若い人は、まだ本当の魚の美味しさを知らないんじゃないか、と思うんです。旬もよく知らないままの人も多いと思うんで、旬の本物を食べて欲しいんですよね。知ってもらえたらきっと、もっと魚を食べてもらえると思うんで。せっかくこんないい海でいろんな魚が獲れるんですからね。」
野口さんのように新しく漁師になる人は決して多くはありませんが、地元の漁師さんたちとともに、地元の海のよさや魚の美味しさを伝えてくれる力強い存在がいることは確かです。私たちも日ごろの買い物のときに旬を意識することで、地元産の魚を食べる回数が増え、地元の漁業への貢献ができます。下関の海の恵みをしっかりいただきましょう!