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山口県漁業協同組合 下関ひびき支店 漁師 梅野晋也さん

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船の前でしもマルの看板を持って笑う晋也さんの画像

 梅野さん親子が行っているコウイカのイカシバ漁は、2月15日から4月にかけて行われる安岡の伝統的な漁です。直径1メートルほどの円筒形の網カゴに、小さな丸い葉がたくさんついたツゲの枝を束ねて取り付けて漁場に沈め、海藻に産卵するコウイカの習性を利用してカゴの中に誘い込んで捕獲します。

 安岡漁港に並んでいる船の中でも大晋丸はひときわ目を惹きました。なぜなら操舵室の窓ガラスがイカ墨で黒くなっていたからです。船の上では父の孝昭さんと息子の晋也さんが、右舷に吊るした直径1mはありそうな円筒形のカゴからコウイカを網ですくい上げて船の活け間に移しています。「墨で真っ黒になるかもしれんけど、近くで見るかね。」と笑いながら声をかけてくれました。

 

操舵室のガラスがイカ墨で黒くなっている大晋丸の上に立つ梅野孝昭さんの画像船の上で船倉からコウイカを網ですくっている梅野さん親子の画像

 

 梅野さん親子は活け間に移し終えたコウイカを少しずつすくい上げて、手際よく1匹ずつ胴と腕の付け根に指を入れて神経締めし、再び活け間に入れていきます。胴の下に指を入れられたコウイカは「ピュッ」と音を立てて一瞬で色が白っぽくなりました。全部のイカを締めたら今度は出荷用の発泡スチロールの箱に大きさを揃えて並べていきます。大きいものは一箱に8匹、サイズによって10匹、12匹と入れていき、この日の出荷は全部で13箱分になりました。「イカが弱らんうちに漁港に持って行かんといけんけ、ちょっと行ってくるね。」と言いながら晋也さんはイカを軽トラに乗せて行ってしまいました。

コウイカを神経締めするために胴の中に指を入れている手元のアップ画像

出荷用の箱に入った10匹のコウイカの画像

 

 船から上がったところには孝昭さんが作ったイカカゴが20個ほど置いてあります。

 

 幅およそ5cmに切った竹を直径1mほどの輪にしたものに網がかけられ、高さ40cmほどの円筒形に作られたイカカゴは、側面にイカが入る入り口が作ってあります。「カゴは全部俺が作ったんよ。もう40年くらい使っとるのもあるね。今は300個ほど海に入れとる。昔はもっと多かったけどね。」

 

 よく見るとイカが入る入り口の両脇に紐の束が付いています。「これは海苔の養殖に使いよった網を再利用して付けたんよ。イカがここに卵を産み付けにきてカゴの中に入るともう出られんようになって獲れるほ。去年まではツゲの枝の束を付けよったけど人手もお金もかかるんで、去年から様子見で少しずつ紐に変えたんよ。でもねぇ、今年はあんまりイカが獲れんねぇ。」と孝昭さん。

 

 安岡でイカシバ漁をしている漁師さんは梅野さんのところと他に1人だけで、他の漁師さんは網でコウイカを獲っています。「イカシバ漁はカゴで獲るけぇ、いっぱい入っとったら上げる時、本当は重いはずなんやけど不思議と軽く感じるんよ。いっぱい獲れたら嬉しいけぇやろうね。」とのこと。体力勝負の漁も、気持ちの部分が大切なのかも知れません。

イカシバ漁に使うイカカゴの画像

 

 漁場は船で10分ほど出た沖合人工島の付近で、時化てない限り1日おきに漁に出ます。多い時には出荷用の箱で20箱分くらいのイカが獲れるそうです。孝昭さんは漁師歴50年以上で、息子の晋也さんが脱サラして一緒に漁に出るようになって20年経ちました。

 

 漁港から帰ってきた晋也さんは「小さい頃から海が好きやったね。子供の頃に親父が潜りに行くのについて行ったりしよった。」と教えてくれました。イカシバ漁の時期以外は潜りでアワビやサザエ、ウニなどを獲っています。「海の作業は見て、慣れて、自分の体で覚えるもんだって言われとったけぇ特に親父から手取り足取り教えてもらった事はないねぇ。1人で潜るようになってから初めて自分でも上達したかなと思ったね。15年くらいかかったよ。」と言う晋也さん。漁師のお仕事について聞くと「サラリーマンしよった時より今の方がいいよ。自分の采配で自由に仕事ができるのが一番いい。漁師になれるかどうかは海が好きかどうか、これに尽きる。あとは浜の文化に慣れる事かな」と答えてくれました。

 

 安岡の漁港にはたくさんの船が停泊していて、丘にはそれぞれの漁師さんの作業小屋が建ち並んでいます。ところどころで漁から帰った漁師さんたちが集まっているのが見えます。梅野さんの作業小屋の前を通る人たちは中をのぞいて気さくに声をかけていました。

 

 そんな浜の文化に触れながらも晋也さんは1人の時間も大切にしています。陸にいるときはマズローの「自己実現理論」について考えたり、ドストエフスキーの「罪と罰」を読んで実存主義について考えたりと自分の内面と向き合うような勉強をするのが好きなのだそうです。「何事も深掘りして考えることが、人知を超える自然に触れる漁師という仕事に向いてるのかも知れんね。」と笑った晋也さんはもしかしたら新しいタイプの漁師さんかも知れません。伝統的なツゲの枝を使うイカシバ漁を続けてきた梅野さんが新しく紐束のイカシバ漁を始めたように、親から子へと伝統と革新が入り混じりながら安岡のイカシバ漁はこれからも続いていきます。