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豊北梨生産組合 農事組合法人 寺畑農園 代表理事 河田征四郎さん
豊北梨生産組合に所属する農事組合法人寺畑農園は、7戸の農家が集まって昭和56年に法人化されました。国の補助事業で山を削って果樹園の土台を作るところから始まり、4品種の梨が植えられました。それから40年以上の月日が流れ、現在寺畑農園では8.7ヘクタールで15人以上のスタッフが10品種以上の梨と7種のブドウの栽培を行っています。代表理事の河田さんが寺畑農園のパンフレットを見ながら現在栽培されている主な梨と収穫時期を教えてくれました。早いものは7月下旬から「明水」、「早優利」、「はつまる」、「夏水」8月に入ると「愛甘水」、「なつしずく」8月中旬からは「幸水」下旬には「豊水」9月の中旬から下旬にかけてはやまぐちブランドにもなっている「あきづき」9月下旬には「新高」、10月に入ると「新興」、「甘太」10月下旬には「王秋」と続きます。初めて聞く名前のナシもたくさんあります。こんなに種類が増えたのは「お客様の要望にお答えして」との事ですが、寺畑農園の皆さんのチャレンジ精神もあるのではないかと思います。
寺畑農園では梨が実る8月から10月にかけて観光農園を行っています。この時期は多くの人で賑わいますが、その賑わいのためにスタッフの皆さんは秋から次の年の夏に向けて様々な作業を行います。落葉した後、大きな木だと慣れたスタッフでも1本6時間くらいかかるという剪定、誘引。広い敷地のすべての木を冬中かけて作業していきます。良い実をつけるように花芽の整理をして、例年4月10日頃に白い梨の花が咲くと交配、受粉。小さな実がつくと、その中から大きく育てる実を選んでそれ以外を摘み取る摘果。すべてスタッフの皆さんがひとつひとつ丁寧に手作業で行います。15人以上いるスタッフは「まだ半年なんですよ」と笑顔の女性や、ベテランの男性スタッフ、中には東京から来た若い女性もいらっしゃいます。「みんな寺畑農園になくてはならない人材でこれからが楽しみですよ。」という河田さん。梨園を見せてもらうと「雌しべにしっかりたくさん花粉がつくと大きく育つんですよ。」と教えてくれました。花芽の整理や摘果作業を行う事で1本の木にいくつ実を成らせるか決まってくるそうで、赤梨だと1本の木は30年くらいの間に1000個もの実をつけるそうです。寺畑農園では観光農園の他にも梨の直販や出荷、地方発送なども行っていて、「梨狩り用には大きい実が喜ばれるので、大きく育てるように。一方で出荷用は一個300gくらいのがちょうどいいのでそのくらいの大きさになるように育ててるんですよ。」という河田さんは常にお客様のことを考えて「安全と美味しさを考えて生産しています。」と言っていました。
せっかく作った梨ですが、外から見ても中身の異常がわからない事も稀にあり、お客様をがっかりさせたり、売り物にならなかったりするリスクを減らそうと寺畑農園では近く選果機の購入を予定しているそうです。他にもロボット草刈機を導入してみたり、たくさん採れる梨を活用しようと加工品の開発にも取り組んでいます。梨のドライフルーツです。まだ開発段階という事ですが、近い将来「豊北ドライ梨」が道の駅などにお目見えするかもしれません。寺畑農園にはまた新しい品種の梨も増えるかもしれません。ぜひ今後も豊北梨にもご注目ください。
美味しい梨の食べ方
梨は枝についている上の部分よりもお尻の方が糖度が高いので、上から下に食べていった方が甘みを強く感じることができるそうですよ。ぜひお試しあれ。
野菜ソムリエ上級プロ 柳井さつきレポート
梨は、コレステロールや糖の吸収を抑える働きのあるカテキンが多く含まれています。生活習慣病が気になる方には特におすすめです。ほのかな酸味はクエン酸。そしてアミノ酸の一種アスパラギン酸が含まれています。これらは疲労回復効果が期待できるので、夏バテ気味の方に特におすすめです。
梨の美味しい食べ方は、それぞれ好みが分かれますが、採れたて新鮮なものは皮の表面がザラザラしていますが、熟してくるとツルツルしてきます。皮の表面を触ってお好みの食べ頃を選んでください。また、常温で食べると甘さがしっかり感じられますが、冷やすと甘味を感じにくくなるものの、夏の暑い時に水分たっぷりの冷たく冷やした梨はほてった体のクールダウンにおすすめの食べ方です。梨特有のシャリ感は石細胞によるもので口から清涼感を感じることもできます。
また梨には、たんぱく質分解酵素のプロテアーゼが含まれています。生の状態ですりおろしたもので肉を漬け込んで焼肉やプルコギにすると肉が柔らかくなって美味しいですよね。また、食後にデザートで梨を食べるとたんぱく質の消化を促してくれるので、これらは理にかなった食べ方です。
ところで、梨のことを「ありのみ」と言うのを耳にしたことはありませんか?私も最初聞いたときは、蟻の実?甘いし美味しいから?と思ったりしましたが、これは「ナシ」が「無し」に通ずることから「梨の実」の忌みことばなのです。「梨」は「無し」ではなく美味しさや栄養は「有り」です。実は忌みことばは他にもあって「スルメ」を「アタリメ」、「すり鉢」「すりゴマ」を「あたり鉢」「あたりゴマ」というのもそれです。日本語の粋を感じますね。
柳井さつき 野菜ソムリエ上級プロ メディアでの活動を中心に山口県の野菜の魅力を伝えている。