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下関和牛部会 吉冨牧場 吉冨貴博さん
肉用牛の生産には2種類あります。母牛に子牛を生ませ、育てた子牛を市場へ出荷する「繁殖農家」と市場で買った子牛を大きく育てて出荷する「肥育農家」です。それぞれを専門で行う牧場もあれば、両方を一貫して行う牧場もあります。下関市小月にある吉冨牧場は、繁殖も肥育も行う「一貫経営」の牧場としては市内最大規模です。吉冨貴博さんは祖父の時代に始まった牧場を継いで26年。小月の住宅街近くにある牧場にはたくさんの建物が点在していて、入り口付近の天井の高い建物には直径と高さが、ともに1mくらいの大きな円筒形にまとめられた稲わらが綺麗に並べられ、垂直に高く積み上げられています。これは牛の餌などに使われ、1年で600本くらい必要になるそうです。5棟に分かれた牛舎の一番古い部分は、廃校になった小学校を移築したものとの事で、改めて遠くから眺めるとそんな面影がありました。牧場内ではあちこちから牛の鳴き声が聞こえます。「昨日親から離したばかりの子牛がいるから母牛と呼び合いよるんですよ。昔は150頭くらいいたけど、今は全部で100頭前後かな。」と吉冨さん。月に1〜2回、合わせて4頭程度が出荷されて行きます。出荷されるのと同じくらい子牛が生まれる計算になるので、出産は頻繁です。昔はいつ生まれるかわからないので牧場に泊り込むこともあったそうですが、今は母牛の子宮にセンサーが入れてあり、体温が常にモニターされ、破水したらスマートフォンにお知らせが入るので、それを見て牧場に駆けつけるシステムになっています。
分娩の手伝いと牛の世話が牛舎での主な仕事です。牛の世話といっても吉冨さんのところには親牛、子牛、肥育牛などいろいろな牛がいるので、それぞれに合わせた世話が必要です。吉冨さんは「牛は腹づくりをしっかりしないといけない。稲わらや牧草をしっかり与えることで腸を強くして、しっかり腹づくりをしてからトウモロコシなど、栄養のある飼料も与えて体を大きくする。このバランスが大切なんです。」と言っていました。この「丈夫に育てて牛の体の大きさを調整する」ところが生産者の腕の見せ所で、経験がものを言うところでもあります。
いい牛を出荷するために大切に世話をする吉冨さんは、子牛の場合にはミルクを飲む量を観察して、いつからどのくらい餌を与えるか、体調はどうか、下痢してないか、など特に気を使います。「血統も大切ですが、いい子牛は腹づくりが良くできていて、毛がふんわりと柔らかく、お腹を触った時に皮が薄いんですよ。」と教えてくれました。子牛は8〜9ヶ月育てると出荷され、黒毛和種の肉用牛は生まれて28〜30ヶ月、800kg〜900kgくらいに育てられて出荷されて行きます。少しでも高く買ってもらえるように相場のタイミングをみるのも大切な仕事の一つです。そして牛舎の外にも仕事があります。入り口で見かけた稲わら。あれは菊川町の農家さんから入手しているもので、吉冨さんがEM菌を使って1年かけて作った完熟牛ふん堆肥と交換しているのです。他にも菊川町に牧草地が5,000平方メートルあり、自分で牧草も生産しています。これだけ手をかけて生産されているお肉はきっと食べる人達を笑顔にしていることでしょう。下関にこんな牧場があることをぜひ多くの人に知ってもらいたいと思いました。